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「へぇ、婚約者…」
凄いなと樹さんは笑う
「私はその気はないですけどね」
「どうして?格好良い人だったし、次期社長だよ?」
「それでも、初恋もまだなのに…
それにまだ18です
いきなり結婚なんて無理です」
「…そっか」
そこからお互いに口数が減り、車内が静まる
日向さんに会いたくなかった
樹さんとも対面して欲しくなかった
婚約者だなんて、そんな事知られたくなかった
溜息が漏れて、背中をシートに預ける
横目で見る樹さんは、何を考えているのか分からない無表情をしていた
運転をしている時は、この人は余計に綺麗だ
男性がハンドルを握る仕草はこんなにも素敵だっただろうか
そう自然と思わされる長い指先
「婚約者がいるなら、もう会わない方が良いかな?」
不意に樹さんが呟いた
私の家の近くの公園に車を停車させて
「彼に悪いしね」
「私は…」
思わず泣き出しそうになって、それを堪えた
断るつもりだと、私はまた貴方に会いたいのだと、そう言ったら受け入れてくれるだろうか?
答えは恐らくノーだ
樹さんは困ったように頭を掻く
「私は貴方を…」
「…沙夜ちゃん」
両頬が包まれて、唇に温かい感触を感じた
この行為がキスだと分かるまでに、1分程時間をたっぷりと使ってから、樹さんの顔が離れる
「弱ったな…俺も、また君に会いたいんだ」
甘い声と、慈しむような眼差しに、私は目を閉じて二度目を受け入れる
夢を見ているみたいに柔らかく、温かな感触をただただ受け入れる
また連絡する、その言葉で夢の時間は終わる
過ぎ行く車を見守りながら、私は次の予感に胸を躍らせるのだ
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