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私は至って普通の平凡な女子高生だ そう、思いたい時がある 実際は、親が幾つかの会社を経営する所謂社長令嬢 高校は何とか普通の進学校を勝ち取ったが、18年生きてきて、今日は一番最悪な誕生日だ 「沙夜さん、お久しぶりですね」 目の前の男性は、和かに微笑んでいる 誰でしたっけ?、そんな無粋な質問をグレープジュースで飲み込んでから、作り笑いを浮かべた 「13年振り…ですかね 美しくなられて、驚きました」 「お上手ですね」 「いえいえ、事実ですよ」 取り敢えず、何となく「お上手ですね」と言っておけば大丈夫な気がしていた 大体それ以外の言葉など浮かばないし、13年振りとはどれ程遠縁なのか… 今更顔を合わせた所で記憶も何も無いだろうに 漏れそうになる欠伸を噛み殺しながら、愛想笑いで彼に向き合う 「沙夜さんは、御卒業後は進学でしょうか?」 「そうですね、まだ若いので大学でまだ勉強をしていたいとは思います」 「そうですか…」 グラスを取ろうとした手をさり気なく握られる 「僕としては、進学せず是非家庭に収まって頂きたいとは思いますがね」 王子様のような微笑み 所謂イケメンの部類なのは一目見ただけで分かる 高級そうな黒のストライプスーツに、袖から覗く翡翠のカフスボタン 少し明るい茶髪をラフに撫で付けた、堅すぎない髪型 柔らかい物腰、二重幅の広い流し目 どこの俳優さんですか?そう思う程の容姿を持つ日向さんは、私の婚約者…という設定らしい 「後は若い者同士で」なんて、高校生の娘に言うか普通、と思うような台詞を吐いて両親は帰宅した 13年前に会ったと言うが記憶になく、こんなイケメンと婚約しろと言われても実感も何もない 普通なら、甘い言葉を囁かれて赤面する所なのだろうが、私は粟立ちそうな肌を抑えるのに必死だ 寧ろ、貴方ならもっと綺麗な方がお似合いですよなんて口が裂けそうなくらい 「あ…困らせてしまいましたか?」 「いえ…」 手を離してください、なんて強気には言えず 視線を泳がせる事が今の精一杯だ あぁ、夜景が綺麗だなぁ… このグレープジュース美味しいなぁ… なんて、どうでも良い考えに頭は逃げて行く 「…沙夜さん、僕は本気です」 目の前に差し出される小箱…もといダイヤのリング 一般女性なら泣いて喜ぶだろうに
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