朝永

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「朝永…朝永樹って名前なんだ」 「朝永さん…」 「樹で良いよ」 車を走らせながら、何気ない会話をしていた 向かう場所は内緒だと言われ、少し警戒する私を安心させる為か、彼は自分の情報を開示していく 「年は23、職業は内緒にしておこうかな 趣味はダーツとドライブ 因みに一人暮らしだよ」 「ダーツ…」 「したことない?今度しに行こうか」 随分と慣れているのか、さらりと約束をされた 初めて会った時の印象を裏切るような、社交的な性格だ 黒ばかり纏っていたから、少し深い何かを感じたのかもしれない 喋り方もフランクで、笑顔も素敵… もしこんな人と交際が出来たら、なんて思ってしまう程には、惹かれていると自覚する まだ2回目、それにほんの30分程度話しただけなのにだ それを言うなら日向さんも同じようなものだけれど… 「それにしても、高校生だとは思わなかったなぁ」 「え?」 「昨日ぶつかった時、ドレスだったし、髪も纏めていたからかな 同い年か少し下くらいに思っていたんだ」 「…ダメ、ですか?」 「ダメではないよ? ただ、変なことは出来ないね」 そう言って樹さんは笑う 変なことってどんな事ですか?、なんて聞けるわけも無く、車はゆっくりと停車する 車窓から見える景色は、高級ホテルの外観だ 「え…」 「まぁ、降りよう?」 樹さんは助手席まで来て扉を開けてくれる どうして?変な事はしないじゃないの? そんな疑問が私の足を重くする 「沙夜ちゃん?」 「あ、えっと…」 私を帰してください、そう言葉にしようとして、出来なかった 恐怖とは裏腹に、この後起きるであろう出来事に期待を寄せる自分がいたからだ 琥珀色の目が、私を射抜く 「甘いもの嫌い?」 「え?」 発せられた言葉は、思いがけないものだった 嫌いじゃないと首を振ると、樹さんは良かったと胸を撫で下ろす 「実は、ここのパティスリーに来たかったんだけど男一人じゃあね… 女の子が一緒ならと思って」 「あ、な、何だ…」 安心して肩の力が抜ける 確かにここのホテルの売りは有名パティシエのグラススイーツとザッハトルテだったなと思い出す 「変な事、期待した?」 ふと耳元で、掠れた声が囁く 私が身をよじると、彼は笑いながら手を差し出した その手を取りながらふと思うのは、恋人がいたらこんな感覚なのかということ
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