第1章

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    もう至近距離なので声は出さず気配は消して、今年も相変わらずの形相で眠る店長の近くに立つ。 毎年どおりに手を伸ばす――だけでなく、わたしは、眠る店長の傍らに膝をつき、目線の高さを合わせてみた。初の試みだ。相変わらずの眉間がより鮮明に陰影を描く。 いつだったか、もう少し楽になってくれないだろうかとマッサージ的な動きを加えようと試みた年もある。けれど結局は変わることないわたしの指先の力加減は、七年目の今年も同じだった。 店長の眉間の皺が、触れた途端に緩くなっていく。それを昨年までよりも近くで感じて、わたしの口元もより緩む。また今年も微力ながら役立てただろうかと指先を眉間から離す。 役立てたかなんて、身勝手極まりない言い草。そんなこと、とうの昔にわかっている。けれどもわたしは何故、毎年毎年。こんなクリスマスの夜に……。 「……」 何か、答えが導きだせそうな気がした。 「――もう、終わり?」 「っ!?」 けれど、聞こえるはずのなかったわたし以外の声に心底驚いてしまい、それらは霧散した。 「もう、終わり?」 再度問われる。 まだ膝をついたままのわたしと同じ高さの視線の先、すぐ傍に、その声の主は目を覚ましていた。店長だ。もちろん。わたし以外にその人しかいないときを、毎年毎年見計らっていた時間なのだから。 もう離れてしまったわたしの手は、自分の身体の横にぶら下がっているだけ。動けない。それを目線だけ動かして確認した店長は、もう一度目を閉じてしまった。
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