16歳、夏。

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『ナギ様』  宛名のところには、たしかにそう、ハッキリと書かれていたのである。本名が書いてあることをちょっと期待したのだがーー。 「そんな慌ててどうしたの?」 「お、おまえこそどこ行ってたんだよ」 「ぼくはコンビニ行ってきた」 「コンビニ? なんで」 「これ」  ナギはウキウキした空気をまとわせて、コンビニのビニール袋を顔の横にもってくる。 「なんだそれ?」 「えへへ。シャボン玉」 「コンビニにシャボン玉なんて売ってたのかよ」 「売ってたよ。夏だからかな?」 「それ関係あんの?」 「うーん。わかんないや」  ナギは不器用な手先でシャボン玉の袋を開けると、ストローの先端にシャボン液をジャボジャボとつけた。吹き口を薄い唇で覆いながら窓のそばに移動するので、ストローの先端からシャボン液が垂れて、畳を濡らしている。 「おい。なんでそこでくわえてから移動するんだよ。普通移動してから口にくわえるだろうが」 「うっ!」  突然ナギが、ゴホゴホと咳こんだ。 「なにっ! だ、大丈夫かよっ?」 「にがーい……」  どうやらシャボン液が口に入ってしまったらしく、舌をだして渋い顔をこちらに向けた。
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