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『ナギ様』
宛名のところには、たしかにそう、ハッキリと書かれていたのである。本名が書いてあることをちょっと期待したのだがーー。
「そんな慌ててどうしたの?」
「お、おまえこそどこ行ってたんだよ」
「ぼくはコンビニ行ってきた」
「コンビニ? なんで」
「これ」
ナギはウキウキした空気をまとわせて、コンビニのビニール袋を顔の横にもってくる。
「なんだそれ?」
「えへへ。シャボン玉」
「コンビニにシャボン玉なんて売ってたのかよ」
「売ってたよ。夏だからかな?」
「それ関係あんの?」
「うーん。わかんないや」
ナギは不器用な手先でシャボン玉の袋を開けると、ストローの先端にシャボン液をジャボジャボとつけた。吹き口を薄い唇で覆いながら窓のそばに移動するので、ストローの先端からシャボン液が垂れて、畳を濡らしている。
「おい。なんでそこでくわえてから移動するんだよ。普通移動してから口にくわえるだろうが」
「うっ!」
突然ナギが、ゴホゴホと咳こんだ。
「なにっ! だ、大丈夫かよっ?」
「にがーい……」
どうやらシャボン液が口に入ってしまったらしく、舌をだして渋い顔をこちらに向けた。
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