17歳、それぞれの世界で。

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「エイジさんの?」 「そう。アタシのどーしようもない、くだらない過去の話」 「ナギが訊いてきたんですか」 「ううん。そういうことを訊いてくるようなコじゃないのはキミが一番知ってるでしょ」 「どうですかね」 「自信ない?」 「オレ、あいつのことなんにも知りませんから」  理央がそう言うと、エイジはさみしく笑った。「だからあのコにはキミが必要なのね」と、意味ありげにため息をついてーー。 「アタシが勝手に話しだしたのよ。あの子はただ、静かに聞いてくれてただけ」  そう言って自分を悪者にすると、エイジはナギにも聞かせたであろう過去の話を、おだやかさをもって話しだした。 「昔ね。アタシ、好きな人を傷つけたの。もちろん相手は男よ。線が細くて、綺麗でおとなしい子だった。当時のアタシはゲイであることや、自分に女性的な感覚があることを公言していなかったの。親にも友達にも……好きな人にもね」  狭く、そして暗いこの部屋で、エイジは遠くを見つめた。 「彼は、距離の近い人だった。いつもアタシの傍を離れなかったの。勘違いしそうになる気持ちを殺して、なんとかやり過ごしてたわ」 「……つらいっすね」  ちゃんと恋をしたことがなくても、どうして恋のつらさは、人をせつなくさせるのだろう。 「ううん。しあわせだった。でもあるときね、彼の誰に対しても近すぎる距離感を、クラスメイトの男子が指摘したの。それからあっという間だった。彼がゲイなんじゃないかって噂が学校中に流れてしまった。アタシはそんな彼を見ていられなかった。ずっと味方でいようと決めて、アタシだけは彼の傍を離れなかった。でも彼も限界だったみたい」
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