17歳、それぞれの世界で。

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「限界……」 「それまでずっと我慢してきた彼が、『エイジ、ありがとう。オレはおまえだけがいればいい』って言いながら、アタシの目の前で大泣きしたのよ」  理央は想像する。片想いの相手に泣きながらそんなことを言われたら……誰だって、うれしいに決まっている。 「たまらなかった。アタシの恋は爆発したわ。勢いで彼に『好きだ』って、言ってしまったの。返事も聞いていないのに、我慢できなくて抱きしめて、唇にキスをしたンだけど……」  エイジは煙草を指に挟んだまま、顔を覆った。 「彼の目が、死んでたの」 「……」 「拒絶の目って、アレ、すっごく怖いのね。突き飛ばされたり、怒られたりしたほうがまだマシだった。ううん。それくらいなら、何度も何度も想像してたのに……」  ナギが寝がえりを打った。気持ちよさそうに、ヨダレを垂らしたマヌケな顔が、こちらを向く。 「彼は一言、『俺のこと、馬鹿にしてる?』って、そう言い残して、去ってしまったの。追いかけたかったけど、追いかける資格なんてアタシにはなかった。だって彼、弱ってたのよ。そんな状態で告白するなんて、エゴもいいところよ! アタシには彼がどれくらい傷ついたのかわかったわ。だって、ずっと見てきたんだもの。アタシ、あんなに参っていた彼に、どうして好きだなんて言っちゃったのかしら。どうして見てるだけで満足できなかったのっ?」  エイジは泣きながら、自然と過去の自分を責める口調になっていた。きっと、本人はその口調に気づいていない。この人は今までに、いったい何度過去の自分を呼んで、その頬を殴ってきたのだろう。 「今からでも謝れないんですか。その人に」  無駄なアドバイスなんだろうなと思いながら、うなだれる女性的な男性に、理央は言う。
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