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「謝ったってしょうがないじゃない。彼を傷つけたのはアタシよ。それは変わらない現実なの。謝ったって、アタシの罪が消えることはないのよ」
「そんなことないよ」
突然、ベッドから声がした。理央には聞きなれた、寝起きのナギの声である。
理央とエイジはベッドを同時に見た。そこには、じっとこちらを見つめているナギの眠そうな目があった。
「やだ……ごめんなさい。つまらないわよね。ナギちゃんには二度目になる話だもの。体は大丈夫? お酒弱かったのね。飲ませてしまってごめんなさい」
「エイジくん」
「ン、なァに?」
エイジはほとんど吸っていない煙草を灰皿で消すと、ナギの傍に駆け寄った。ビジュアル的には、さしずめ眠りから覚めたお姫様と王子様の二人である。
「お水飲む?」
ナギはエイジの問いかけに答えることなく、横たわったまま、じっと相手を見つめていた。
「謝ってみようよ」
「え……」
「好きだった人に、謝ってみよう」
ナギはそれまでのエイジの話を総括してなのか、いきなりそんなことを言いだした。理央からすると、まだちょっと酔っているようにも見える。
「む、無理よ……もう何年も会ってないもの」
「会えないの?」
「きょ、共通の友達は何人かいるから、会おうと思えば会えるかもしれないけど……」
「じゃあ会おう。それで謝ってみよう。だって、エイジくんは謝りたいんでしょ?」
「イヤよっ。それだって、ただのアタシのエゴじゃないっ。アタシはエゴで彼を傷つけたのよっ。その上、今度もエゴで謝るっていうのっ?」
「うん。そうだよ」
「そんなことしてみなさいよ。また言われるんだわ。『俺のこと、馬鹿にしてる?』って」
「うん。言われるかもしれないね」
「だったらなおさら……っ」
するとナギは、エイジの頭に触れた。そして優しく撫でると、慈愛に満ちた笑顔でこう言った。
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