17歳、それぞれの世界で。

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「僕もエゴだもん」 「……っ」 「そこにいる本山くんだってエゴだし、アジちゃんも沙那さんも」 「で、でも……っ」 「エイジくんの好きだった人も、きっとそうだよ。みんな一緒だよ」  エイジは目を閉じた。そして《こらえきれない》というように、ナギの手を頬にもってくると、そこに顔をうずめた。  ナギは笑顔で、 「だから、怖くないよ」  と、エイジに言い聞かせ、相手が満足するまで自身の手を好きにさせ続けた。  しばらくすると、エイジがナギの手から顔を上げた。さっきよりも清々しい表情だった。 「まったくあなたって子は……」 「えへへ」 「ねえ、お願いがあるの」  エイジは上からナギをのぞきこむ。 「キスをさせてくれないかしら。勇気のしるしに」  ちょっと待て、と理央がツッコむ間もなかった。ナギは「うん。いいよ」と言って目を閉じる。 「いい?」  エイジが理央に顔を向け、口パクで訊いてくる。  ナギはただの友達だ。ダメだと言ったら、怒られるんだろうな。そう考えると、自分がひどく小さな人間に思えてくる。  理央はエイジにうなずいてから、二人に背を向けた。野郎同士のキスなんて見たくなかったし、二人に恋愛感情がないこと、そして今この瞬間に、キスが二人にとって必要なことだと頭ではわかっていても、モヤモヤする心を無視することができなかったからである。  ほんの五秒ほどの時間だったが、ひどく長く感じた。静けさの中に自分の心臓の音が、バクバクと脈打つのを感じた。
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