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うしろから、「ん……」という声が聞こえた。ナギの声かもしれないし、エイジの声かもしれなかった。あるいは自分の頭が作り出した幻聴の可能性だって、このときの理央にはじゅうぶんありえたことだった。
どちらにせよ、ナギの声じゃないことだけを、ひたすら祈った。
二人の離れる音が、ベッドのきしむ音となって耳に届く。
「モトヤマくんっていうんだっけ? ありがとう。終わったわよ」
エイジの言葉に理央はドキッとして振り向いた。頭を掻きながらチラッと見ると、いつもの笑顔でヘラヘラと笑ってるナギがベッドに横たわったままでいた。
「えへへ。エイジくんって、唇やわらかいんだね~」
「そりゃケアに気を遣ってるもの。それよりアタシ、煙草くさくなかった?」
「ちょっとだけくさかった」
「やっぱり煙草やめたほうがいいわよねェ~。真面目に考えようかしら、禁煙」
「そのにおいが好きな人もいるよ~」
「そっか。そういうもンよね。それよかナギちゃん、アナタよかったの? キスもはじめてでしょう?」
「ううん。それははじめてじゃないよ~」
「アラ、そうだったの。意外ね」
「うん、去年ねえーー」
ナギがさりげなく視線をこちらによこしてきたので、
「わああああああっ!」
と大声を出して、理央は床におちていたナギの服をかき集めた。
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