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「も、もう用は済んだんだろっ! さっさと服着て帰るぞっ!」
ナギに服をわたすと、エイジがニヤニヤしながらこちらをじっと見つめてきた。
「な、なんですかっ!」
「べっつにィ~?」
「去年ねえ、本山くんがーー」
「だーーーーッ! おまえはもうなんも言うなッ!」
服を口もとに押しつけ、理央はナギの言葉を遮った。エイジは終始、ニヤニヤしながら「誰なのかしらねェ」と意味ありげに理央を見てきた。
モタモタしているナギを着替えさせ、こうして男三人は慌ただしくラブホテルをあとにしたのだった。ホテルから出たとき、通行人に変な目で見られたのは言うまでもない。
「悪いことしちゃったわネ」
エイジはナギに聞こえないよう、理央の耳元でつぶやいた。
顔から火が噴きそうなくらい、恥ずかしかった。「風が気持ちいね~」とのんきに口にしているナギに腹が立つ。
「どうしてアタシ、アンタたちにあんなことを話したくなったのかしらね」
そう言い残し、自分の世界へと戻って行ったエイジの背中は、傷つくことを恐れない人間の強さが滲みでていた。男とか女とか、そんなことに囚われている自分が恥ずかしくなるくらい美しく、そしてかっこよかった。
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