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たしかに自分は、ナギの兄貴みたいだな。理央はそれまでの自分の行動を思い返すと、不服ながらも納得せずにはいられなかった。鯵坂の言う通り、甘やかしたくなる。ナギという人間には、そういうところがあるのだ。なにもかも自分一人でできるナギなんて、ナギじゃない。
だが一方で、人知れず抱えてきたものをこぼしたくなるような雰囲気も、厄介なことにこの男にはあるのだ。紙同士を糊でベッタリとくっつけたように親身になってくれるわけでもなく、突き放すでもない。また、上からも下からも相手を見ない。誰も行ったことのないような、まったく別の次元から、ぼんやりと対象を見ているような……そんな雰囲気も孕んでいる。
きっとエイジも、そんなナギの決して浅くはない懐を見抜いたのだろう。彼は、もともと洞察力のありそうな目をしていた。
理央は足を止める。
「あの人、謝れると思うか?」
「あの人って、エイジくん?」
十数分前まで会っていた相手なのだから覚えているのも当然だと思いつつ、普段人の名前を覚えないナギのことである。エイジの名前を即答されたことに、理央はちょっと衝撃を受けた。
「そう」
「う~ん。わかんない」
「冷たいな。適当なアドバイスだったのかよ」
「僕、アドバイスなんてしてないよ~」
「は? おまえがエイジさんに『謝ったほうがいい』って言ったんじゃねえか」
「言ったよ」
「ふざけてんのか」
「アレはアドバイスじゃないもん。僕が思ったことを言っただけ」
「それを《アドバイス》って言うんだろ」
「え~」
「バカなの、おまえ」
「アドバイスのつもりじゃなかったんだけどな~」
「っとに、ヘンなやつ」
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