17歳、それぞれの世界で。

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 ここでその質問をされるとは思ってなかった。今年の夏がはじまってから何度も話す機会はあったのに、ナギが尋ねてこなかったからである。思えばムシのいい話だ。  理央は悟られないように動揺する。 「そ、それは……」 「本山くんは、僕のことが『特別に好き』なの?」 「ち、ちが……。あれは魔が差したっていうか……」 「僕、本山くんのことが好きだよ。だって友達だもん。これも『特別に好き』に入るの?」  入らない。入るわけがなかった。現に《友達》と《特別に好きと思う相手》は、絶対に違う。  理央はただちに、間違ったナギの解釈を訂正しなければいけなかった。  だけどーー。 ーーーーーー  馬鹿だった。一年後、本山理央はこのときのことを何度も思い返す。もしもあのとき、《違う》と言っていたら、どうなっていたのかを。うやむやにしないで、《友達》と《特別に好き》の境界線をハッキリさせていたら、どうなっていたのかをーー。  だがこの時の理央にとって、未来は未来でしかなかった。目の前の現実に生きるのに、とにかく必死だった。 ーーーーーー 「おまえ、他に友達はいるのか?」 「ううん。僕、学校行ってないもん。小学校も中学校も、いろいろあってほとんど行けてないんだ」  自分以外に友達はいない。その言葉を聞いた瞬間、理央はガッとナギの手をつかみとった。  たまらなかった。ハッキリと、自覚したのだ。こいつの友達は自分しかいないのだという、卑しい優越感を。 「も、本山くんっ? どうしたのさっ」  理央はナギの体を引っ張って歩いた。困惑しているナギの声を遮断してーー。
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