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ここでその質問をされるとは思ってなかった。今年の夏がはじまってから何度も話す機会はあったのに、ナギが尋ねてこなかったからである。思えばムシのいい話だ。
理央は悟られないように動揺する。
「そ、それは……」
「本山くんは、僕のことが『特別に好き』なの?」
「ち、ちが……。あれは魔が差したっていうか……」
「僕、本山くんのことが好きだよ。だって友達だもん。これも『特別に好き』に入るの?」
入らない。入るわけがなかった。現に《友達》と《特別に好きと思う相手》は、絶対に違う。
理央はただちに、間違ったナギの解釈を訂正しなければいけなかった。
だけどーー。
ーーーーーー
馬鹿だった。一年後、本山理央はこのときのことを何度も思い返す。もしもあのとき、《違う》と言っていたら、どうなっていたのかを。うやむやにしないで、《友達》と《特別に好き》の境界線をハッキリさせていたら、どうなっていたのかをーー。
だがこの時の理央にとって、未来は未来でしかなかった。目の前の現実に生きるのに、とにかく必死だった。
ーーーーーー
「おまえ、他に友達はいるのか?」
「ううん。僕、学校行ってないもん。小学校も中学校も、いろいろあってほとんど行けてないんだ」
自分以外に友達はいない。その言葉を聞いた瞬間、理央はガッとナギの手をつかみとった。
たまらなかった。ハッキリと、自覚したのだ。こいつの友達は自分しかいないのだという、卑しい優越感を。
「も、本山くんっ? どうしたのさっ」
理央はナギの体を引っ張って歩いた。困惑しているナギの声を遮断してーー。
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