299人が本棚に入れています
本棚に追加
/542ページ
「ど、どこ行くのっ? こっちはさらなみじゃないよっ?」
「……」
「か、帰らないとっ。み、みんなきっと心配してるよっ」
「……」
段々と泣きそうなものに変わっていくナギの声を無視して、理央は腕を引っ張って歩き続けた。
「こ、怖いっ。本山くん、怖いよ……っ」
「……」
「しゃ、しゃべって……っ。お、お願い……お願い、だよう……」
海を目指し、沿道の階段を降りたところで、ナギは砂浜に足をとられたのか、膝をついてころんだ。でも、理央はその手を離さない。
「どうして……っ。本山くん、怖い……っ」
立ち上がろうとしないナギを見て、理央は自分がとんでもないことをしでかしたのだと悟った。罪悪感にハッとなって、ナギの手を離す。
互いの汗で、手のひらがじっとりと濡れていた。こんなときでも、砂粒は指のあいだをぬって、侵入してきたようである。手のひらは少しザラザラとしていた。
ナギは逃げることなく、その場に膝を抱えて座りこんだ。一人になりたいときや、完全な拒絶の姿勢を見せるときに、ナギがよくやるポーズだ。理央がこのポーズを見たのは、三回目だった。一回目は去年の夏、三沢という従業員の窃盗を見逃し、理央に咎められたとき。二回目は今年の夏、信太郎と聡が来た翌日。
「……オレが嫌か」
ナギは否定するように、首を横に振る。
「ううん。でも怖い……っ」
「それを嫌っていうんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!