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そう言うと、理央はナギの頭を両手でつかみ、無理やり顔を上げさせた。不安に怯えた目が、理央をとらえる。
泣きそうだった。でも、ナギは泣かない。何度その目に、騙されてきたことだろう。
最低だ。
頭の中で、もう一人の自分が言う。
誰に?
決まっている。
《オマエ》だよ。
理央はナギの唇に、乱暴に自分の唇を押しあてた。
「……っ!」
薄い唇を、無理矢理奪う。
昨年の夏とは異なり、ナギは頭を振って理央のキスに抵抗した。いったん唇が離れる。その隙を狙って、ナギが逃げようとする。
理央は相手のシャツや手足を乱暴な気持ちで引っ張り、時には押さえつけ、その唇を何度も何度も奪った。
「ふ……っ。う、ああ……っ!」
もがき続けるナギの顎をつかんで固定し、強引に空を見上げるようにさせる。だが、空なんかよりも《自分を見ろ》というように、理央はナギの視界をキスの嵐で覆った。
唇と唇のあいだに舌をいれると、よりいっそう抵抗が激しくなった。
「や、ら……っ! い、やあら、あ……っ!」
舌で舌を犯している最中、ナギは「嫌だ」と言い続けた。あまりにも嫌だ嫌だ言うので、理央は冷静に、やっぱり嫌なやつとのキスは嫌なんじゃん、と思う。
だが、さすがにそれは口にできなかった。口にしてしまったら、本当に終わると思ったからだ。
――モウオワッテルヨ。
もう一人の自分が、耳元で囁く。
理央はハッとして、唇を離した。ゆっくりと自分の下で砂まみれになっている男に目を落とす。
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