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「やめろよっ! おまえがそんなこと言うなよっ! セックスとか、軽々しく言うんじゃねえよ……っ!」
「僕はまだそういう気持ちになったことがないからわからないけど……本山くん、去年のキスも今のキスも、性的なものが抑えられなかっただけなんでしょう?」
「違うって!」
「じゃあなんだったの?」
理央は口を開きかけた。その口は、「す」と言いかけていたが、ぎゅっと唇を噛んでその言葉を飲みこむ。自信がなかった。
「……っ」
「本山くん?」
「オレ以外の人と……キス、しないでくれるか……」
「本山くん以外のひと……?」
理央はうつむいた頭をさらに下にして、うなずいた。今は、これが精いっぱいだった。
ナギの手が、うつむく理央の頭に乗せられた。ちょっと笑っているのだろう。
「うん。わかった」
そう言ったナギのトーンは、いつものように高く、理央のすべてを包んだ。
こうして奇妙な約束を、理央とナギは交わしたのである。
とはいえその晩、理央はナギの体に触れることを自分に禁じた。他人の罪に寛容すぎる男の優しさに、溺れてしまわないようにーー。
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