17歳、いつか忘れてしまうかもしれない日々を。

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***  ぷにぷにと柔らかい感触を、理央は唇に感じていた。本来グミのような、ぐにゃぐにゃぷにぷにとした触感は嫌いである。でも、不思議とこれは嫌じゃない。  しばしのあいだ感触に浸っていると、夢なのか現実なのかわからなくなる。  ぷにぷにと柔らかい。マシュマロのような……。  理央はパチッと目を開けた。状況が飲みこめず、ポカンとする。いやいやいや、現実だって。まごうことなく唇に感じるのは、人の唇だって!  なぜって、視界を覆っているのはナギのドアップの顔だったからである。 「だあああああ!」  理央は後ずさって男から離れた。 「なななななななにしてんだよ!」  唇を押さえる。自分は今、野郎にキスで起こされてしまったというわけである。こんな経験、なかなかできるものではない。  朝日がやたらまぶしく、二人の部屋に光をもたらしている。めずらしく理央より早く起きたらしいナギは、窓を開けて部屋の空気を入れ替えた。 「やっと起きたね~。今日はちょっと涼しいよ~」 「涼しいよ~、じゃねえよ! な、なにキスしてんだよ!」 「え~だって約束したじゃん。本山くん以外の人とキスしちゃダメだって」  キス、という単語をつむぐナギの唇に、訳のわからない動悸を覚え、理央はふと目を逸らした。昨晩の出来事をありありと思いだす。  昨夜、理央はナギの唇を強引に奪ってしまったのである。暴力的かつ、八つ当たりみたいなキスだった。  一晩経つと、昨日という日があいまいになることも、鮮明になることもある。今回、理央にとっての『昨日』は、部分として切り取れば鮮明ではあるけれど、全体としてちょっと離れたところから眺めると、ひどくあいまいな一日だった。夢だったのではと、思えてしまうくらいに。
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