17歳、いつか忘れてしまうかもしれない日々を。

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「そ、それはおまえがわけわかんないヤツに好き勝手キスさせないようにだなーー」  途中まで言うと、まるで自分がナギを独り占めしたいみたいではないか、と思った。恥ずかしくなり、理央は誤魔化す。 「つ、つまりだな、むやみやたらにするもんじゃねえんだよ。キスってのは」 「え~。でも、したくなっちゃったら?」 「そんなのオレの知ったことじゃーー……って、え?」 「どのタイミングで息をすればいいのかわからないけど、キスって気持ちいいね。柔らかくて」 「おまえ、キスしたいの?」 「うん。気持ちいいし」 「だ、だれと」 「も~、ボケちゃったの? 本山くん以外の人はダメなんでしょ~」 「じゃなくて。本当はだれとキスしたいんだよ、おまえは」 「う~ん」  未知の数式に直面した数学者のように、ナギは腕を組んで考えこんだ。 「先生、とか……?」  理央は傷つく覚悟で訊いてみた。 「先生? 先生のことも好きだからできるよ~。でも、たぶん先生は僕としたくないと思う」  そういう関係じゃないんだな、と理央が密かにホッとしていると、ナギは久しぶりに理央の前でスケッチブックを開いた。  チラッと中身を盗み見てみる。 「なんだそれ?」  描かれていたのは、画用紙いっぱいに浮かび上がった二つの目だった。背景は鉛筆で大雑把に黒く塗られていて、その目はどこか悲しげに歪んでいる。
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