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共同浴場から部屋に戻ってくると、ナギの姿が見当たらなかった。理央が風呂に入る前、布団の上で葉書を手にしながら眠っていたはずである。
普段通りなら、たたき起こしてでも一緒に風呂へと連れていくが(ナギは一人で風呂に入ると、綺麗好きの女子並みに上がるのが遅い)、そのあまりにも穏やかに眠っている顔を見ていると、起こすという行為に罪悪感すら抱かせた。
主のいない布団の枕元に、スケッチブックがある。その上に、今朝ナギ宛に送られてきた葉書が置かれていた。
ダメだ、と心の中では思っても、理央はそのとき、どうしても好奇心に逆らうことができなかった。
葉書に手を伸ばし、裏面をじっと見つめる。
そこには、シャボン玉を連想させるような淡い水玉模様のはがき絵と、メッセージが書かれていた。
『残暑お見舞い申し上げます。元気にしていますか。話があります。東京に戻ってきたら会いましょう。追伸、鯵坂に飲みすぎないようにと伝えてください。』
簡潔な文章だった。伝えたいことが伝わればそれでいい、というようなシンプルさだった。無駄を排除するような、ちょっと冷たい印象の文章――。
理央が表面をめくろうとしたそのとき、ナギが戻ってきた。
とっさにもとの場所に葉書をもどす。
「あれ。本山くん、もう上がったんだ。早いね~」
「お、おまえがいつも遅すぎるんだよ」
一瞬だけ、葉書の表面が見えた。送り主は小さくて見えなかったが、宛名はハッキリと見えた。
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