僕だけが

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僕だけが

 四年も離れていたというのに、やはり両親は僕のことなど気にも掛けない。  いや、姉がこのような状態であれば、普通の家庭でもそうなのかもしれないけど。  地元に就職する事で、実家に入る事、姉の傍にいるという願いは叶った。  初出勤の三日前である今日。  風が冷たいのは、春のせいじゃなく。  風が強いのは、春一番だからじゃなく。  逆風が、僕の体を押し戻そうとする。  姉の病室は僕のすぐ傍、多分丁度この真下あたり。  頭から行けば、きっと心臓は大丈夫。  ここでなら、すぐに姉に届けてもらえるだろう。  僕だけがあれられるモノ。  僕は左胸に手を添えると、そのフェンスを昇った。  
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