僕だけが

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「今のは見なかったことにするから」  それだけ言うと、智也さんは僕の腕を引っ張った。  振り解けない程の力ではなかったけど、僕はされるがままに付いて行った。 「もう、顔だけ見て出て行かないでよ」  僕の顔を見ると、姉は満面の笑みで僕を迎え入れた。  その顔は、今の僕の気持ちなどまるで悟っていないようだ。  という事は、ホントに僕に何か用があるのか。  僕が姉の傍らまで進むと、姉は突然被っていた布団を大げさに剥いだ。 「じゃーん」  その膝元に隠していたのは、洋服カバーだろうか。 「両親の前では言えないけど、あんた、昔から自分で洋服選べなかったじゃん?だからって訳じゃないけど、今回も私が見立ててきたのよ」 「それって・・・」 「就職祝いって事で、私からのプレゼント。あんたの事だから、出勤用のスーツも用意してないだろうと思って」
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