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そして、観察していて一番思うことがある。
睦月千尋を見ていると、とてももどかしい気分になるのだ。
今は昼休み。購買へ飯を買いに行った奴もいれば、早々に弁当を食べ始めた奴もいる。
観察を始めて一週間。そろそろ限界である。傍迷惑だろうか。でも、どうしても手助けしてやりたくなってしまう。
俺は昔から世話好きだ。世話好きすぎてたまに迷惑がられるくらいには。
自分の世話焼きっぷりを自覚して最近は自重しているのだが、それも早々に意味をなさなくなりそうだ。
目の前で塩野がぺちゃくちゃ喋り続けているのに適当に相槌を打ちながらも、目線の先は完全に隣の睦月にむいている。
こいつは、おにぎりすらまともに食えないらしい。
珍しく菓子でなくコンビニのおにぎりを食べようとしているので見てみれば、剥き方が分からないらしく、さっきからずっとおにぎりを弄り続けている。
弄りすぎておにぎりが変形していて、なんともいえない見た目になっている。
こいつ、コンビニのおにぎりも剥けないとか、今までどんな生活してきたんだ。
こんなに生活能力のない奴もなかなかに珍しいぞ。
俺は堪えきれず、睦月からおにぎりを奪い取った。
「おまえなあ、おにぎりすら剥けない男子校生がどこにいるってんだ。これはな、こうやるんだよ。」
声を掛けながら剥き方を説明してやる。最初は驚いて固まっていた睦月であったが、今は真っ直ぐにおにぎりを見つめ、真剣に説明を聞いている。
おにぎりの剥き方を教えているだけなのに物凄い真面目に話を聞いている睦月がおかしくて、少し笑った。
「はい、できた。もう分かったか?」
「うん。あの、ありがと。ちょっと困ってたから、助かった。」
そう言って睦月は少しぎこちなく、笑った。
ぎこちないけど、こいつの笑顔は初めてみた。
冷たそうな雰囲気が少し柔らかくなって、なんだか印象が変わる。
ーーなんだ、こいつ。いい顔できるじゃないか。
相変わらずゆっくりとした話し方だが、こんなにも感謝の言葉を真っ直ぐ伝えてくる奴は今ではとても珍しい。照れるが、悪い気はしない。
お節介かとも思ったが、こうして素直に感謝してくれているのでそうでもないらしい。
それならこれからも助けてやりたいなと思う。
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