林檎の欠片

不思議な男の観察日記

それから、隣の睦月のことを度々気にかけるようになった。

それがきっかけとなり、睦月は塩野とも絡むようになっている。

まあ、絡んでいる。というより、絡まれている。といったほうが正しいかもしれないが。

あのおにぎりのことがあったすぐ後、塩野は睦月に話しかけた。それはもう、ものすごい勢いで。
あの時は塩野と昼飯を共にしていたので、まあ当然の流れといえばそうかもしれないが。

睦月も、最初は塩野のマシンガントークについていこうと必死に話を聞いていたのだが、元々がとても鈍感でマイペースな奴だ。
全てを把握しきれるわけがなく、ひたすらオロオロするばかり。

その様子が不憫で見るに耐えなかったため、あいつはただ自分が話をしたいだけだから、適度に聞き流して大丈夫だ。ということを睦月に教えてやった。

それからは、当初のようにオロオロすることもなくなり、気楽に塩野と接せることができるようになったみたいだ。

睦月を見ていると、なんだか不思議な気持ちにさせられる。
遠くの昔に自分が忘れてしまった何か。
睦月は、それを今でも持っているような気がする。

とても純粋でそして美しい、なにかを。