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ーー綺麗だ。
確かに、こんなに顔の整ったやつは稀に見ない。線が細くて中性的。
さっき塩野が言っていた奴は十中八九こいつだろう。
皆んながそいつに注目している中、視線を気にもせず教室内にそいつは踏み出した……が。
ドサッ
こけた。そこには何もなかった筈なのに。勢いよく、そいつはこけた。
アメリカののコメディードラマにでも出て来そうな転び方だ。
もしこいつでなく他のやつが同じ事をしていたら間違いなく笑い者だが、なんだかこいつの場合、ぶっ倒れたのかと心配になってしまう。
そいつはのそのそと立ち上がり、俺の隣の席によろよろと座った。
あまりにも頼りない感じがして思わず声をかける。
「おまえ、勢いよく転んだな…大丈夫かよ?」
「…うん、なんか、よくこけるから。もう慣れた。」
ひどく、ゆっくり喋るやつだ。
だが、こいつは声まで綺麗なのかとも思う。
こんな小さくてヒョロヒョロしたやつがしょっちゅう転んでいたらいつか大怪我でもしてしまいそうな気がして、初対面なのにも関わらずなんだか心配になってくる。
そう、初対面であるのになんだか人を引き込んでしまうような。
睦月とははそういう、不思議な奴だった。
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