映画館

4/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
が、ふと気付くと、音楽に紛れて聞こえる咀嚼音が、だんだん大きくなっている気がする…。 何か…近づいて来てないか? ガリガリ ポリポリ クチャクチャ ペチャペチャ ペタペタ 誰かが…頭のおかしな奴が、何か得たいの知れないものを食べながら室内を歩き回っている? 気味が悪くなって、エンドロールの途中だったが、席を立とうとした。 その時 キキッ 何かが鳴いた。 動物の鳴き声のように聞こえた。 声の方、ゆっくりと足下に目をやると、前の座席の下に、無数の光る点。 目だ。 と、思った。 無数の小さな光る目が、こちらを見ていた。 体が凍りついたように動かない。 喉まで出かかった声を必死で飲み込む。 指一本動かしただけで、息ひとつ吐いただけで飛びかかってくるのではないか。 そう感じて、動けなくなった。 それはほんの一瞬だったような、数分だったような。 けれどその張りつめた均衡は、突然破られた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!