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バチン、と音がして館内の明かりがついた。
一瞬目がくらむ。
思わず瞬きをしてもう一度下を見た時、そこには何もいなかった。
ホッと息をつくと同時に、体の力が抜けた。
目の錯覚か…。
ゆっくりと立ち上がり、ふと周りを見ると、室内には誰もいなかった。
いつ出ていったのだろう?気が付かなかった。
上映の間中、何かを食べていたあのマナーの悪い客も。
ほんの少し前まで、音がしていたのに。
何だか釈然とせずに立ち尽くしていると、上映室の古くて重いドアが、軋んだ音を立てて開いた。
ギョッとしてそちらを見ると、清掃員らしき作業服を着た中年の男が入って来た。
男もこちらを見て、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに無表情に戻り、腰を屈めて黙々と何かを拾ってはゴミ袋に詰めていく。
何を…?
そんなにゴミが落ちているとは思えない。
ガサガサというのは、ゴミ袋の擦れる音だろう。
それに混じってゴトンとかゴロンとか、何か重い物を動かす音、それに液体の上を歩くようなピチャピチャ……という音。
気になったが、 見てはいけない気がした。
そのまま逃げるように足早に映画館を出た。
出るときに横目で館内を確認したが、やはりどこにも食べ物を売っていそうな売店などはなかった。
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