第一話 見世物小屋のマリア

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「お(まり)、客も待ちわびてるんだもちっとだけ辛抱(しんぼう)してくれ。  ささっと終わらせるから・・・」  源内は、じたばたと暴れるお(まり)と呼んだ娘の帯を(つか)み、優しい口調(くちょう)でなだめつつも強引に小屋の中へ引きずっていった。こうしてみると源内とお(まり)はまるで父と娘のように見えた。  肩越しに娘の様子を見ている左官職人の手を引きつつ、小屋番が東北訛(とうほくなま)りで話しかけてきた。 「(にい)さん、木戸銭(きどせん)はたったの八文(はちもん)。新しモン好きなら、まんず気に()るったよ!」  木戸銭八文(きどせんはちもん)は現代でいうと160円程度、超安酒(やすざけ)一合(いちごう)(=180ml)くらいの値段で、十六文から三十二文(320~640円》という相場の他の見世物小屋の料金と比べたら、この料金は最低の部類だった。 *    *    *  舞台袖(ぶたいそで)にある支度部屋(したくべや)にお(まり)を連れてきた源内は、座らせると背中に回り、乱れた襦袢(じゅばん)(えり)ぐりを(つか)んで躊躇(ちゅうちょ)なく一気に帯のあたりまで引き下ろした。 源内の目前に白い絹のようなすらりとした背中が現れた。       
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