第一話 見世物小屋のマリア

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 源内は腰に下げた(かます)から煙管(キセル)を取り出し、根付(ねづ)けから(きざ)(たばこ)をひとつまみ、煙管(キセル)の先っぽの火皿(ひざら)に詰め、近くのろうそくの炎で火をつけた。  源内の吐き出す煙管(キセル)の煙にマリアはケホケホと咳き込んだ。  その様子を見ていた源内は、ふうと息を付き、苦笑(にがわら)いを浮かべた。  「ほんと、お(ぬし)まるで人間だな…。   さて、急がねば」  源内は煙管(キセル)を勢い良く盆の(ふち)に叩きつけると、カン!といい音が鳴り、火皿(ひざら)から燃えカスとなった(きざ)(たばこ)が落ちた。 *    *    *  「いったいいつまで待たせる気だー!!」  「早く始めろい!!」  予定の刻限(こくげん)を過ぎても出し物が始まらず、集まっている客たちが騒ぎ始めていた。  客の人数はたった10人。  だが、(ほとん)どが<ゑれき娘>と書かれた法被(はっぴ)や手ぬぐい、うちわなど『関連グッズ』で身を固め、マリアが美しく描かれた錦絵(にしきえ)=ブロマイドのようなもの を手にしている<常連>たち。  熱気に(つつ)まれた客席は、マリアの登場を今かいまかと待ちわび、しびれを切らしていた。  先ほど無理やり入れられた左官職人(さかんしょくにん)は、その中で窮屈(きゅうくつ)そうに座り、周囲を(おそ)る恐るキョロキョロ。     
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