第一話 見世物小屋のマリア

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 男の声で(われ)に帰った左官職人はあわてて娘を離した。  長羽織(ながばおり)の男は娘の手を取り引き寄せ、(いや)がる娘の耳に顔を近づけた。  「マリ…いや <お(まり)> !   もう見世物(みせもの)を始める刻限(こくげん)なんだ。   早く支度(したく)しないと客が帰っちまう。   あと少しだけ我慢(がまん)だ、   ガ・マ・ン!」  「(いや)ーーー!!   センセ、   源内(げんない)センセ!!(≧△≦)   くすぐったいの、イヤーーーーーッ!!」  口をポカンと開けてその様子を見ていた左官職人に、番台から降りてきた小屋番(こやばん)が声をかけた。  「さささ、どんぞどんぞ、こちらへ。」  左官職人は小屋番に手を引かれ、なかば無理やり小屋へ連れ込まれてしまった。 *    *    *  今からだいたい240年ほど前  当時の平均的な寿命(じゅみょう)を考えると、あなたの6代~8代前くらいのご先祖様(せんぞさま)が生きていた時代。  日本は戦国(せんごく)乱世(らんせ)が終わり、大きな(いくさ)のない太平(たいへい)の世が160年も続いていた。 幕府(ばくふ)はキリスト教禁止を名目(めいもく)に オランダ・中国・朝鮮以外の外国と貿易すること     
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