第一話 見世物小屋のマリア

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そこに(ねらい)いを定めて、仮設(かせつ)の小屋をさらりと一時的に作って興行(こうぎょう)する、という いわゆるゲリラ的な営業を行なっていた。 (興行(こうぎょう)=見世物を(ぜに)を取ってみせること) そのため 小屋の作りは、簡単に作れて簡単に解体(かいたい)できる<()っ立て小屋>の形だった。 ()っ立て小屋とはどういうものかというと ちゃんとした建物の作り方と違って 礎石(そせき)(=建造物の土台として柱を支える石)を使わず、 地面に丸い穴を掘ってそのまま柱を埋めるだけ 壁は(しっくい)木板(きいた)の代わりに、(こも)葭簀(よしず)などのゴザを下げただけ という 超シンプルなつくりの建物のことをいう。 その作りのためか、見世物小屋は別名 小屋掛(こやが)けとも呼ばれていた。   薄暗い建屋(たてや)の中は 夏は蒸し暑く冬は寒く 居心地(いごこち)がいい場所とは決していえない空間だったが、 むしろその居心地の悪い暗がりのほうが客の想像力が高まったのかもしれない。  *    *     *  ところでこの地、 両国とは<二つの国>という意味で 当時の両国は、現在の場所(=両国橋の東側)と少し違って、両国橋の『東西にまたがった大川(おおかわ)両岸の地域』を指していた。     
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