第一話 見世物小屋のマリア

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 大川(おおかわ)沿いには塩漬(しおづけ)の桜に湯を注いだものを出す水茶屋(みずぢゃや)がずらりと並び、そこでは常連(じょうれん)の客たちが茶をすすりながら、お気に入りの給仕(きゅうじ)=現代で言うウエイトレス にちょっかいを出しつつ、目当ての見世物が始まるのをいまか今かと待ちわびていた。 *    *    *  そんな大賑(にぎ)わいの両国広小路(りょうごくひろこうじ)を通り過ぎたいっとう外れのところに、三間四方(さんけんしほう)の小振りな見世物小屋が建っていた。  一間(いっけん)は畳の縦の長さ《約1.8m》なので、三間四方となると18畳、ワンボックスの自動車がゆったりと2台入る駐車場くらいの大きさである。  小屋の入り口の上には、この時代ではかなり珍しい<油絵の具>で描かれた   『ゑ《え》れき娘』  の飾り文字と、西洋画とも浮世絵(うきよえ)とも言えないなんとも不思議な画風で描かれた、肌もあらわな   <花魁娘(おいらんむすめ)>  の看板が掲げられており、入口の両脇には『ゑれきてる』の(のぼり)が立ち並んでいた。  その絵の娘は浮世絵(うきよえ)で見られるこの時代の「美人」とはまったく違って、  目は大きくキラキラ  髪も着物も極彩色(ごくさいしょく)  まるで現代のアニメキャラ。  現代人がタイムスリップしてこの芝居小屋を見たら、アキバに来たと勘違いするかもしれない。 *    *    * 話はやっと冒頭に戻る。     
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