第一話 見世物小屋のマリア

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 小太りの左官職人(さかんしょくにん)=塗り壁などを塗る職人 が、看板を見上げて中に入ろうか、どうしようかと逡巡(しゅんじゅん)していると、小屋から若い娘が飛び出してきた。  「もーヤダ!!ガマンできなーーーい!!!」  「マリ・・・いや<お(まり)>!!見世物を始める刻限(こくげん)になっちまう。もう少しだけ我慢だ、ガ・マ・ン!」  「(いや)ーーー!!センセ、源内(げんない)センセ!!(≧△≦)くすぐったいの、イヤーーーーーッ!!」 *    *    *  見世物小屋から娘を追って出てきた長羽織(ながばおり)の男は、平賀源内(ひらがげんない)。  (よわい)五十一となるこの男は、(ざつ)にまとめ上げた(まげ)無精髭(ぶしょうひげ)という出で立ちで、背は高いが猫背(ねこぜ)。  苦労が顔に出いているせいか、(ほほ)が少しコケている。  この年の冬、あと半年の(のち)刃傷沙汰(にんじょうざた)を起こし獄死(ごくし)したとされる男である。     
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