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お客様は神様です。
「ようこそ、お客様。告解室へ」
その柔和な声でヴィクトール・ナールは目を覚ました。
何百もの蝋燭が煌々と輝いており、ナールはその眩しさに一度目を閉じた。まばたきしながらゆっくり目を慣らせば、自分と連れが狭い部屋に押し込められていると理解した。
その暗い小部屋のカーテンを開けたのは、戸惑うナールに慈愛の笑みを向ける男だ。男は白いストラを首にかけており聖職者にも見えるが、蝶ネクタイにベスト、手に銀の丸いトレーとくればウェイターと呼ぶのがふさわしいだろう。
「告解室……? 何のことかしら?」
「紫弦、気が付いたか」
ナールは連れの女、大鳥紫弦(おおとりしづる)に声をかけた。
「少し前から起きていたわ。暗闇に目を慣らしていたのよ」
「そうか。ちなみに、告解室とは罪の赦しを得る儀式に使う部屋だ。間仕切りを挟んで聖職者に打ち明けるアレだな。懺悔室と覚えている者もいるだろう。我々はどうやらその部屋にいるらしい」
「あら、ここ試着室じゃなかったのね。――ところで貴方、気遣いがなってないんじゃない? 急に明るくしたら目が痛くなってしまうわ」
紫弦はナールの返答を軽く流して、気の利かないウェイターを叱咤した。
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