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しかし、三塁を回ったところで、足が動かなくなった。一歩足を前を出すのも、かなりの体力を使うようになってきた。あともう少しで、ホームベースだというのに。
もう少し。香織の頭に、再びあの試合のことがよぎった。あの時、もう少しのところで、あのフライを捕ることができなかった。もう少し早くスタートを切っていれば。もう少しグラブを先に伸ばしていれば。しかし、思いは届かなかった。そして今回も、もう少しのところで全国大会を逃すのだろうか。
もう嫌だ。もうあんな思いはしたくない。香織は頭の中から、あの試合のことを振り払おうとした。何が何でも、綾佳をホームベースまで連れていく。最後の力を振りしぼって歩き出そうとした。
しかしその思いとは裏腹に、香織の足は一歩も動かなくなってしまった。それどころか、立っていることすらできない状態になった。体はフラフラになり、倒れそうになった。綾佳は、香織が自分の体の下敷きにならないように、あえて香織を突き飛ばした。その結果、二人はそのまま倒れてしまった。
「カオリン、もういいよ。ここからは私一人で行くから、休んでて」
「だめよ、足が痛いんでしょ。ちょっと待って、すぐ起きるから」
「カオリン、よく聞いて」
「え?」
「あんたは今まで、私たちを引っ張って本当に頑張ってくれた。今日だって、私をここまで運んでくれたじゃない。それだけで充分だよ。みんな感謝してるんだよ。だから、ここからは私にまかせて」
「綾佳……」
「それに、カオリンだけをヒーローにさせないからね」
「……ヒロインでしょ」
「そんなの、どっちでもいいよ」綾佳はそう言って、ほふく前進でホームへ向かった。香織には、もう綾佳を止めることはできなかった。
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