第一章

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 翌日は、対面式が行われた。新入生が、本格的に学校生活に仲間入りする、大事な行事だ。体育館に入ると、在校生に温かい拍手で迎えられた。  校長の挨拶、生徒会長の挨拶、新入生の決意表明に続いて、クラブ紹介が行われた。各クラブが、自分たちの活動をPRして、新入生を勧誘する。淡々と自分たちの活動について述べるクラブ、コント仕立てで注目を集めるクラブなど、さまざまだ。香織は、ソフトボールに入部することに決めていたので、他のクラブの紹介は、それほど真剣には聞いていなかった。  ソフトボール部といえば。  前日、ソフトボール部に入ることを告げて以来、沙紀とは、挨拶はしたものの、まともに会話はしていない。この高校のソフトボール部には、何かあるのだろうか。とは言うものの、そのことを沙紀に聞くだけの勇気が、香織にはなかった。もちろん、香織は、そのことでソフトボール部に入部することをあきらめるつもりはなかった。去年の夏、自らのプレーで全国大会の出場を逃してしまった。その時の悔しさを、今も忘れることはできない。なんとしても、高校で、全国大会出場を果たさなければならない。  と、その時。香織は、沙紀とは反対側の肩に、重みを感じた。見ると、隣に座っていた男子が、香織の肩に頭を乗せて居眠りしている。昨日の自己紹介では、たしか大原健太という名前だった。それにしても、うら若き乙女の肩にもたれかかるとは。香織は、健太が頭を乗せている肩の位置を下げた。支えを失った健太は、突然、「うわぁ」と叫び声をあげた。一瞬、体育館が静まり返り、やがてどっと笑い声が起きた。  香織は、何気なく沙紀の方を見た。沙紀も笑っていた。もちろん、それが健太の失態によるものであることはわかっている。それでも、香織はうれしかった。昨日の件以来、沙紀の笑顔を見ることはなかったから。
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