第三章

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「絶対にいけません!」  予想された答えだった。その日の夕方、一ノ瀬家の台所。母親は夕食の準備で、野菜を切っている。今夜はシチューらしい。  香織は家に帰ると、インターネットで用具について調べてみた。グラブやミットは何とかなるとして、バットは数本、ボールはできるだけ必要になる。できればスパイクも欲しい。少なくとも5万円、場合によっては10万円かかりそうだ。メンバーで分担することも考えたが、できれば香織は、自分で用意したかった。今回の計画は香織が始めたものであり、他のメンバーはつき合わせているに過ぎない。経済的負担は負わせたくなかった。  その資金を稼ぐために、香織は母親にアルバイトをさせてくれるように頼み込んだ。しかし予想通り、ものの見事に断られてしまった。  「大体、学校ではアルバイトは禁止されているんでしょ」  「そうだけど、親の許可があれば……」  「一体、何を買うの? お小遣いはちゃんとあげてるでしょ」  「でもほら、高校生になると、色々と買いたいものがあるじゃない」  「だから、何を買うのよ。必要なものがあったら、ママが買ってあげるから、ちゃんと言いなさい」  香織は何も言えなかった。ソフトボール部のことは、母親には言ってない。昨年、全国大会を逃したとき、落ち込んだ香織を、母親は優しい言葉をかけてなぐさめてくれた。だから立ち直れたと、香織は思っている。高校で全国大会を目指そうと思ったのも、一つには、母親に喜んでもらいたいと思ったからだ。その母親に余計な心配をかけないために、今回の計画は黙っていた。  表向きはクラブ活動の延長ということなので、部活費として親に出させたとしても、親をだましたことにはならない。ただそうなると、キャプテンの領収書が必要になってくる。城ヶ崎キャプテンにそれを求めるわけにはいかない。キャプテンの筆跡をまねて領収書を書くことも考えたが、それは下手をすると犯罪になる。そこまでするわけにはいかなかった。
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