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視線。
面を上げれば、目があった。
よくあることだが、恥ずかしげに、あるいは気まず気に視線を反らしてくれるならかわいいもんで。
どや顔で微笑まれようものなら、気色が悪い。
今回はその、気色が悪い方だった。
研修で世話になった先輩社員、表立っては無下にも出来ない。
「玖珂ー、今日飲みに行こうぜ」
「佐波川さん、お疲れ様です」
余程自分に自信でもあるんだろうか。
断られるなど微塵も思ってない顔で誘われた。
めんどくせぇ。
「すみません、自分今日は都合が悪くて」
「何だよ、仕事?」
「仕上げておきたい要件があるんです」
「俺より仕事の方が大事かよ」
当たり前だよ馬鹿野郎。
「なあ。こいつ、今そんなに忙しいの」
佐波川さんは、僕の向かい側の机で仕事をしている先輩に向かって、声をかけた。
「あー、まあ、最近忙しそうにはしてるよな」
「そんな毎日?1日くらい、良いよな別に」
「あー、まあ...良いんじゃないか?玖珂」
ちらりと、寄越される視線は「行ってこい」と言っている。
なるほど。
佐波川さんはこうやって、本人の意思丸無視で外堀を埋めていくのか。
めんどくせぇ。
「...分かりました。今日は、付き合います」
「まじ、やりー」
「今日は」という所に力を入れて言った。果たして彼が気付いているか...たぶん、気付いてないんだろうけど。
あぁ、もう、面倒くさい。
さっさと終わらせよう。
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