喰われる前に

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適当に入ったホテルのベッドには、気を失った佐波川さんが無造作に転がっている。 まあ、転がしたのは僕だけど。 当然、向こうは素っ裸。 布団をかけてやる優しさなんざ、生憎持ち合わせてもいないもんで。風邪でもひいてしまえ。 あぁ、嫌気がさす。 今まで、この見た目で得したなんて思ったこともない。 迷惑な話だ。 可愛いだの?綺麗だの?とりあえず容姿を誉めれば喜ぶとでも思ってるんだろうな? 自分の価値観が人と違うなんて、思いもしないんだろう。 コイツらは。 男だろうが女だろうが、性別なんて関係なしに。 自分の物として抱いて、人形のように横に置いておきたいだけ。 そこに愛情なんてものはなくて、ただの興味本位や、支配欲や自己顕示欲があるだけ。 そんなものに、なぜ僕が付き合わないといけないんだろう。 なぜ、望んでもいないのにそんな感情を向けられなければならないんだろう。 コイツらの欲に直面するたび、僕は自分の存在が惨めに思える。 だから。 だから僕は、喰われる前に彼らを喰うんだ。 『喰われる前に、喰ってしまえ』
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