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数十年も前のこと、一人の女が世間を騒がせた。
地方都市にある銀行でベテラン女子行員による横領事件が発覚したのだ。
被害総額は約九億円。そのほとんどを年下の恋人に貢いでいたという。
交際相手も満足にいないまま四十路を迎えようとしている私にとって、
あなたとの出会いは最後の望みのように思えた。
私はあなたに愛されていると信じていたから、あなたが欲しいと言った外車も、
クルーザーも、マイホームだって二人の将来への投資だと思って買ってあげた。
ギャンブルで負け金がないと泣きつかれたら、仕方がない人ねと小遣いを渡した。
それもこれも、あなたへの愛を示す証だったから。
でも、単なる銀行勤めの私に、あなたを繋ぎ留めるだけの金などなかった。
だから、あなたに請われるまま、勤め先の銀行から金を盗み取っていった。
顧客から預かった預金に手を出したのが最初だった。一線を越えてしまった私は、
いつの間にか罪の意識も薄れてしまい、気が付けばすっかり犯罪に手を染めていた。
繰り返すごとに犯罪の手口も大胆になり、横領する金額も増えていった。
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