1、単推しっ!!

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「はい。これ。有意義に使えよ」 テレビが国民的男性アイドルグループ、typhoonのダンスの様子を放送する中、父さんがそう言って僕にポチ袋を渡してきた。 「ありがとう。大切に使うよ」 僕は父さんに儀礼的にそう言った。 今年のお年玉の使い道は、もう決まっている。 僕は森川秀成。高校1年生だ。今年は父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、親戚のおじさん、おばさんから合わせて4万円のお年玉をもらった。 使い道はもう決まっている。 先月末に発売されたBLC64のニューシングル「飛び立て!折り鶴」をまとめ買いするのだ。 目当てはもちろん、握手券。 バレンタインデーの昼間に行われるBLC64の握手会。僕が単推しかつ激推ししている須賀川るる子ちゃんが、僕の住んでいるこの街にやって来るのだ。 ※1 単推し……アイドルグループの中で、たった1人だけのファンであるということ ※2 激推し……文字通り、「推し」を強めた言葉。物凄いファンであること るる子ちゃんの手に、るる子ちゃんの肌に触れられる。るる子ちゃんの体温が僕の手に伝導するのを考えるだけで、頭がのぼせ上がってくるのだ。 今、るる子ちゃんはBLC64で毎年6月に行われているセンター争奪総選挙で9位。でも、彼女には底知れないエネルギーがあるんだ。 絶対僕の手で、るる子ちゃんをNo. 1にする! そして将来、るる子ちゃんは、るる子ちゃんは…… 「るる子ちゃんは、僕の永遠のアイドル(およめさん)になるんだ!」 僕は部屋中に貼ってある須賀川るる子の、否、森川るる子のポスターにそう誓った。
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