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そういえば、お茶を出していなかった。立ち上がりながら言った言葉にナオトさんは無反応だ。ポットでお湯を沸かし、インスタントのコーヒーをマグカップに入れる。
「美奈とは友達だ。あと彼女はいない」
「えっ、そんなにイケメンなのに彼女いないんすか」
思わず目を見開いて声がした方を向いた。驚いて失礼なことを言ってしまったのに気づいて、慌てて謝る。マグカップにお湯を入れる時、ちらりとあちらを見ると、顔に雲がかかっていた。
しかし、彼女がいないのは失礼だけど驚いた。しかもなぜか親近感なんてものまで感じてしまったから笑える。さっき会ったばかりなのに。
二人分のマグカップを持ち、キッチンから座っていた椅子へゆっくり運ぶ。
「すんません、変なこと言いました。美奈と友達ってことは大学生っすか」
「ありがとう、そうだ」
「じゃあ敬語じゃなくていいよな」
「ああ」
コーヒーを受け取ると、意外と言ってはあれだがお礼を言われた。てっきり言われないと思っていた。
コーヒーを啜る間、沈黙が続く。結局何しに来たかを聞きそびれて、聞くに聞けない気まづい状態だ。
緊張しているのか、手汗がひどい。それに意味もなくコーヒーにちびちびと口を付けてしまう。俺がそわそわしていることに気づいたのか、ナオトは沈黙を破った。
「聖都は男同士の恋愛についてどう思う」
「ぶっっ!!」
飲んでいたコーヒーが出るんじゃないかと思った。いきなりなんなんだよ。せめて前置きしろよ。いや、されても困るんだけどさ。
一切曇のない真剣な顔なので、ふざけているわけでは無さそうだ。意思の強い瞳に吸い込まれそうになり、俺はふいっと目をそらした。
「うーん、俺は今まで女しか好きになったことねぇけど…別にいいんじゃね?」
「…そうかならいいな」
「え?」
同性愛なんて今まで遠い存在で、考えたことも無いに等しかったので、否定もできずに答えたが、それがいけなかったんだろうか。
俺は今、年下のさらにイケメンな学生に、壁に追いやられいわゆる壁ドンなんてものをされていた。しかも逃げられないように、俺の足の間にはこいつの足が置かれている。あまりに一瞬の出来事に脳がついていかない。身体もついていかない。何これ。とりあえず助けて。
「ちょ!何してんだよ、っ離せって!」
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