3 この国は

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「ここは……。」 「ネスタリア王国最大の市場だ。食べ物、洋服、武器なんでも揃ってる。」 連れてこられたのは大きな市場だった。たくさんの人が行き交い、たくさんの品物がやり取りされている。お祭りのようににぎやかな場所だ。 治安が悪いような気配はなく、皆、回りに警戒して行動しているような素振りもない。人混みではよくあるスリも少ないのだろう。 「皇子、おはようございます。」 横を通った若い娘がそう、挨拶をする。ブロンドのみつあみにシロツメクサの花冠がよく似合っている。花屋の娘だろうか。 「ああ、おはよう。あ、店に何かいい花は入ったか?」 「パンジーがたくさん入荷したんです!色鮮やかでとっても綺麗ですよ。あと、最近、ミニブーケの作成も始めたんです。」 自分の故郷では見られるはずのない光景だった。平民と王族が同じ空間で会話をする。自らの感覚から言えば異様な光景だった。 「じゃあ、あとで取りに行くからミニブーケを頼んでいいか? さっき言ってたパンジーを入れたものをひとつ。」 「はい! 必ず素敵な物をお作りいたしますね。それでは!」 少女は去っていく。皇子から注文が入ったのが相当嬉しいのだろう。らんらんとスキップをしながら市場の更に奥の方へとかけていった。 「最後に花屋によらなくちゃいけませんね。」 「ああ。じゃあ、まず服屋に行くか。ヒュラも流石に服の数足りないだろ。どんなとこがいい?」 「えっ、お、皇子の買い物ではないのですか!?」 予想外の問いかけに、思わず声が裏返る。 「お前の買い物だよ。で、どこがいい? ここなら、ほとんどの店が揃ってるぞ。やっぱり、お前の故郷の服がいいか?」 「……はい。やっぱり、着なれた服がいいです。」 やはり、人を守るのなら、着なれた動きやすい服の方が良い。着なれない服ではやはり、どこかに隙が出来てしまう。 「そうか。じゃあ、あっちがわの店だな。」 皇子は全速力で走っていく。慌てて、彼の後をついて行った。
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