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 そんな時である。不意にぞわりと背筋が凍るような何かを感じ、ロステアールの肌が粟立つ。同時に、木々で休んでいたのであろう鳥たちが一斉に飛び立つ羽音や、獣が悲鳴じみた鳴き声を上げて走る音が聞こえた。  生まれる前から廃棄されているロステアールの感情が表に出ることはなかったが、たった今捨てられたそれは、紛れもなく恐怖であった。ロステアールの驚異的な生存本能を以てしても、僅かな表出を許してしまうほどの、圧倒的な恐怖だった。 (なんだ、この、気配は……)  これまでに感じたことのない気配だ。ロステアールにはその正体が検討もつかなかったが、ただそれが圧倒的な存在感を放っていることだけは判った。  次に自分の取るべき行動に迷ったのは、一瞬。ロステアールは気配の濃い方へと歩みを進めた。こういうときに感情がないのは便利だと、彼は思う。もし自分に正しく感情があれば、あまりの恐怖に逃げ出していたところだろう。そう思うほどには、気配の先にいるだろう何かは脅威であった。  そして、向かった先で見た光景に、彼は目を見開く。  巨大な大樹を縦に裂くかのように走った、大きな亀裂。しかしそれは、真に大木を断ち切っているのではない。たまたま木の幹を裂く形で生じた、巨大な次元の裂け目であった。     
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