7/9

374人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 確かに、リアンジュナイルに残る伝承では、ドラゴンとはただの翼ある爬虫類ではなく、圧倒的な力を持った種族だと言われている。だが、それがこれほどのものだとは、ロステアールも思っていなかった。  この竜ならば、大陸ひとつを滅ぼすのにも、さしたる労を要しないだろう。  ロステアールは非常に優れた戦士であるが故に、己と目の前の最強種との間に横たわる絶望的なまでの力の差を理解してしまった。そして同時に、この生き物と対峙した時点で己を死が決定づけられているような錯覚に陥った。それほどまでに、ドラゴンという生き物は圧倒的な強者であったのだ。  それでもロステアールが自身を保っていられたのは、生来の感情の欠落に加え、竜から敵意らしきものを一切感じなかったからだろう。 「……ドラゴンがこれほどまでに優れたる種とは、存じ上げなかった。あらゆる伝承の中で貴殿らを貶めた人間たちの無礼の数々、この場を借りて、深くお詫び申し上げる」  そう言ったロステアールは、地面に手をついて深々と頭を下げた。だが、その行為に竜はやや不快そうな声を返す。 『やめろ。お前にそのような態度を取られては、俺が怒りを買うかもしれん。元より人間が何をドラゴンと呼ぼうと、それは俺たちの知ったことではない。人間の無知故にドラゴンの名が誤って使われたところで、それで俺たちドラゴンに影響が出ることもないからな。呼び名など好きにしろ』     
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加