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「お待ち頂きたい。貴殿は私のことを私よりも知っておられるご様子。もし許されるのならば、貴殿が私に見たものを教えて頂くことはできないだろうか」
ロステアールがそう問いかける間にも、亀裂が端から張り合わさり、徐々に閉じていく。残る隙間から目だけを覗かせた竜は、ロステアールを見つめた。
『そんなもの、俺の口から言えるものか。わざわざ怒りを買う恐れのある行動を取るなどごめんだ。……まあ、精々抗うことだな。そのまま己を騙し続けられたならば、その生をまっとうすることもできるだろう』
その言葉を最後に、亀裂はぴたりと閉じてしまった。最早そこに亀裂があった痕跡はなく、ロステアールの前にはただの大樹があるだけである。
「……半端者の異端、か」
それは、自分を産むと同時に亡くなった母と何か関係があるのだろうか。
ふとそんな考えが浮かんだロステアールだったが、それを確かめる術は、どこにもなかった。
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