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 それは、赤の王が天ヶ谷鏡哉と出逢う、十年ほど前の話。  彼がまだ王ではなかった頃に経験した、稀有な出来事の話。        鍛え抜かれた身体を傭兵の服に包んだ男は、単身深い森を歩いていた。うなじを覆う程度に伸ばされたその髪は、ここ帝国領土においては珍しい赤銅で、その瞳も稀有な、炎を溶かし込んだような金色をしている。  彼の名は、ロステアール・クレウ・グランダ。グランデル王立騎士団第一部隊の副隊長である。  齢十八の彼は、その実力だけならば隊長をも凌ぎ、そう遠くない未来に騎士団長にも並ぶだろうと言われているが、どうにも団を抜け出して放浪する悪癖があり、そのせいでなかなか出世できないでいる。尤も本人に出世欲はなく、また周りも、母が平民であるとは言え王の息子なのだから、と自由にさせているため、特に強く咎められることはなかった。     
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