第7章 普通じゃないことも普通になる時

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初めて心療内科にいった翌日。 バイトも大学も休み。 ちょうどいい。 俺はいつも過食をしてしまう夜を待たず、夕方、俺は処方されたデパスという薬を手にとった。 銀色のシートからラムネより小さい小さな錠剤を取り出して口へ投げ込み、水で飲む。 30分。1時間。2時間。 変わらない。 何も変わらない。 さらに待つ。 変わらない。 時計はすでに19時だと教えている。 眠気のねの時もない。目が冴え渡り、頭の奥底が「過食したい」とソワソワし始めている。 食べたい食べたい食べたい。 キッチンへ行く。 今日はデパスのおかげで夕方に寝てしまうつもりだったから弁当や惣菜を買っていない。 冷蔵庫にはシュークリームが3つだけ入っている。 これだけじゃ過食できない。 すがる気持ちで引き出しを開ける。 そこにはこの前実家に帰った時にもらってきた乾燥素麺が入っていた。 よかった! 俺は過食ができることにホッと安心し、1束100gの素麺を5束全てゆでた。 500gの素麺とシュークリーム3個。 それを2リットルの水で流し込む。 あー結局食べてしまった。 昨日と同じ。一昨日と同じ。毎日同じ。 先ほどまで食べたくて食べたくてソワソワしていた気持ちは途端に冷めて罪悪感になり、そしてこのままじゃ太ってますます醜くなる、という恐怖に変わる。 これも毎日同じ。 トイレへかけ込み、喉の奥に人差し指をつっこむ。 素麺って吐きやすいな。つるつるしているから簡単に俺の口から吐き出されてトイレへ流れていく。 吐いている間は身体は苦しいけれど頭の中は安心感に満たされ、思考はとてものんきだ。 結局俺はいつもと変わらぬ儀式を終え、嘔吐で汚れた身体をシャワーで清めてベッドへ入った。 薬なんて効かないんだ。さほど期待していたわけではないけど、俺は少し落胆していた。
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