第1章 ある日の記憶

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ナツくん、指名だよ。 急にオーナーに声をかけられた。 俺は、ベッド一台が置かれたワンルームの狭い待機室でテレビを見ていた。 ヒマな午後の主婦向けの、内容のないワイドショー。 まったりしすぎて、自分に声がかかると思っていなかった。 少し前にインターホンが鳴り、客が入ったのには気がついた。 けど、待機しているボーイは俺一人じゃない。 この狭い待機室にあと三人、同じくワイドショーを見て時間をつぶしているのだ。 俺が座っているベッドにはもう一人が寝転がり、床には二人があぐらをかいている。 人口密度マックス。 この待機室は、せいぜい三人が限界だと思う。 ついでに、寮として使われている近くのマンションにも三人のボーイが待機している。 こっちより広い1DKで、人数は三人。 いや、こっちも実際は2Kのマンションなのだ。 ただ、玄関には客を迎えるカウンターが作られ、一部屋は接客用に常に空けられている。 だから、俺らボーイが待機室として使えるのはワンルームのみ。 よって、寮のほうが人口密度やや低。 オーナーの目もないし、自由な寮生がちょっとうらめしくもあるけど、俺は寮は嫌いだった。 まるで小学校の教室のような閉鎖空間。 いや、むしろ閉鎖社会。 寮生同士の仲は、なかなかに微妙だ。 今の三人はうまくやっているようだが、前にいた20歳のぼーやは、寮での生活がツライと言ってそうそうに辞めて行った。 親との折り合いが悪く実家を飛び出たと言っていたから、いま頃どうしているかな、とふと思う。 自分で部屋を借りられるような仕事を見つけていればいいけど。 話がそれたが、そんなわけで、いま、俺が指名される確率は七分の一。 油断していた。
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