彼と彼女。

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彼と彼女。

「───。」 「──ぇ、死ぬのが怖いかい?」 「いいえ?怖くないわ。だって...」 「、だって?」 「あなたがいるもの。あなたがいなくちゃ私は生きる方が怖いのよ」 「そうかい───」  波の荒い海のなかで、半身を水の中に浸したまま小太りの男性と背中半分ほどまで伸びた髪の女性が話している。  見たところ、人気のないこの夜の海で心中しようとしているようだ。  少しずつ歩を進め、水が胸の辺りまで来たところ。少しすると男性の方が先に頭の上まで浸かった。  男性が確実に沈んだことを確認し、女性が後を追うように海に潜った。    少しすると、女性が砂浜にあがっていくのが見えた。  近づいて、少し上がった段の上でその女性に手を差しのべた。  手に気が付いたのか、髪の毛をかきあげながら顔を上げ、 「...あら。かずくんじゃない。何をしているの?こんな夜の海で。あなたどんくさいんだから、滑って海に落っこちちゃうわよ」  そう言い、かずくん、こと佐藤和(さとうかず)のさしのべた手を取った。 「君が言うことじゃないよね、生華ちゃん。心中でもしようとしてたの?」  和の言葉に、生華ちゃん、こと茶寮生華(さりょうしょうか)は目を細め、じとーっと和を見た。 「何?何で知ってるのよ。合ってるわよ、まあ死ぬ気なんてさらさらなかったけど。」 「さっきね。君を見かけたんだよ。小太りな男性とホテルから出てくるところをね。」  二時間ほど前、和は生華と小太りな男性がホテルから海の方へ歩いていくのを会社帰りに見かけていたのだ。  一度家に帰り、食事を済ませ、海、というキーワードで何となく不穏な空気がしたので散歩がてら海に向かったのだ。    案の定、生華は海に入っていたし、小太りな男性はたぶんもう生きて空を見ることは出来ないだろう。 「何?私を見かけたから着いてきたって?」  和の差し出した手とは逆の手からタオルを取り、濡れた手足や髪を拭いた。 「着いてきたってわけじゃないけど、」  と言おうとした和の言葉を遮って生華は、 「かずくんって、  ストーカー」 妖艶な笑みを浮かべ、そう言った。
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