彼女の。

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彼女の。

 海での心中もどきの後、生華は和に別れも言わず自宅に戻った。  和がなにかいっていた気がするけどそんなことはどうでもいい。  心中もどきを生華としていた男性は、いい人だった。  最後の一言でわかった。どれ程の愛情を持って生華に接していたのか。 「────ありがとう。」 そう言い、生華と繋いでいた手を離した。  人生を捨てることにした男性は、最後の最後で共に死のうとした相手を気遣う。  手を離して、生きるか、共に死ぬのか、選択肢をくれた。  とっても、いい人だった。  そんな人だったからこそ、生華は最高に綺麗な顔で笑っている。男なら皆、惚れてしまいそうな顔で。 「あぁ、楽しかった!!!とっても楽しかった!!!没落企業の社長さん!!さいこうー!!死にたい!死にたい、死にたい死にたい!!!!あんなにシニタイって私の前で言ったのはあの人以来よ!!」  自分の部屋に戻り、鍵を閉めたとたん、生華は一人で喋りだした。  ひとしきり喋ると、口を閉じ、缶ビールを取り出す。  ベッドに座り込み、パソコンのメールを開く。 「次はどんな人にしようかな~」  メールの内容を確認しながら、生華は次のターゲットを探す。  勘違いしないでほしいのだが、生華は犯罪者ではない。  法に触れることはなにひとつしていないのだ。  人を殺したりするわけじゃないし、盗みもしない。暴力を振るったりもしないのだ。  生華は、男が好き、生華自身に惚れて、壊れていく男をを見るのが好きなのだ。 「次はこの人にしよーー!」  二分ほどパソコンを眺めていたが、結局メールボックスの一番上のメールを選んだ。 「こんばんは、夜分遅くにすみませんーっと」  メールを打ちながら、その美貌からは考えにくい雑で適当な所作でその辺のものを片付け、ベッドに入り電気を消した。
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